世界で最も歴史のあるKLM Royal Dutch Airlinesは、事業を飛躍させるための仮想現実・拡張現実(VR・XR)技術の活用において業界を主導しています。1919年に設立された同社は、年間数百万人の乗客と貨物を世界160以上の都市に運んでいます。
航空機が離陸する前には、地上職員、客室乗務員やパイロットが詳細なチェックリストを確認し、航空機が準備万端であることを確かめる必要があります。同社の職員は、旅客機のデジタルツインを使用してトレーニングや確認を毎週数千回行っています。外出先のモバイルデバイスから簡単にアクセスできるデジタルツインによって、コンピューターを使ったオンライントレーニングも可能です。
KLM XR Center of Excellenceのバーチャルリアリティエンジニア兼スペシャリストを務めるChris Koomen氏は、Matterport Pro2 3Dカメラで撮影した航空機内外の没入型の画像を利用し、利便性と効率に優れた研修の質と効率性を高めています。元航空整備士である同氏は、2015年にVRチームを立ち上げました。現在、Boeing、Airbus、EmbraerなどKLM Royal Dutch Airlinesが保有する14種類の航空機ごとに作成された104種類のデジタルツインのライブラリーを擁し、その視聴回数は約90万回にも及んでいます。
デジタルツインで研修の質を向上
Koomen氏がPro2カメラを入手したのは2017年のことでした。翌日には新型ジェット旅客機787の米国への初フライトに搭乗し、その機内を撮影しました。ミネアポリスの地上職員にとってはこの特殊な機体の清掃が初めてだったため、着陸後、Koomen氏がタブレット、スマートフォンやVRヘッドセットを使って機内のデジタルツインを見せ、機内通路をバーチャル空間上で歩きながら、化粧室、ティッシュペーパーの保管場所やサービストロリーの収納場所など、キャビンを細部までリアルに確認できることを説明しました。
「これは後で聞いたことですが、その晩の清掃員は、以前に機体のレイアウトを見たこともなかったにも関わらず、通常より15分も早く作業を終えたといいます。ミスもまったくなかったそうです」と同氏。「最初は偶然かと思いましたが、デジタルツインを使って事前にクルーに説明をしておくと、毎回、清掃所要時間が平均で30%も短縮できることが分かりました。デジタルツインの可能性を目の当たりにし、当社が使用するすべての機体のデジタルツインをキャプチャしてプログラムの拡張を開始することに決めました。」
客室乗務員用には別バージョンのデジタルツインが用意されており、安全やホスピタリティに関わる重要なアイテムの場所を旅客機ごとに確認することができます。天井に収納された酸素ボンベ、床照明、避難路の蛍光表示、非常灯スイッチ、煙探知機や消火器など、重要なアイテムはMattertag付きで表示されます。客室乗務員は、デジタルツイン内を移動しながら、氷、タオル、飲み物、カトラリーや食品などを入れるハッチを回転させて確認でき、トレーニングに役立てることができます。スタッフが大人数で実物の飛行機では機内の移動が難しい場合でも、狭い空間を同時に操作することができます。
作業効率を向上
パイロットは、フライト前に、オンライン上で機体を確認することができます。Matterportの技術を活用すれば、滑走路にいるパイロットがオペレーションセンターにいるエンジニアと遠隔で共同作業し、ウェブ会議を立ち上げてデジタルツインを基準に画面を共有し、問題をピンポイントで特定可能です。
Koomen氏は、バーゼルへの搭乗準備中にパイロットがエンジン付近で異音と思われる音を感知したときのことを振り返って説明しました。「雑音が発生している機器を特定するために、整備士に電話で相談していました。デジタルツインを通じて、パイロットと整備士が航空冷却システムを確認し、問題を明らかにしました。結果運行上の影響を軽減することができました。」
定期的なトレーニングも、旅客機のデジタルツインを利用したオンライン形式であれば、手軽に実施できます。パイロット向けのフライトシミュレーターは、3Dでキャプチャーされたコックピットで補完するほか、訓練中の乗務員は、いつでも航空機をバーチャルで訪問し、何度でも歩き回り、研修で学んだ内容を定着させることができます。
デジタルツインの活用によって、研修の内容を充実させ、学習した内容を定着させることができました。また、仕事の進め方についてもより具体的にイメージすることが可能になりました」とKoomen氏は言います。
デジタル技術により、実際に航空機に足を運ぶ回数を減らすことで、効率化が図れます。「デジタルツインを使えば、訓練生による格納庫の訪問で、航空機の整備作業が中断されることもなく、運行スケジュールへの影響を抑えることができます。」と同氏は説明します。
また、多数のスタッフや関係者がKLM Royal Dutch Airlinesの拠点であるアムステルダム・スキポール空港まで車や飛行機で移動する必要も減り、移動の負担も軽減されました。同社のデジタルツインへのアクセス数は1,000件/日ありますが、そのうち業務の遂行を目的とした社内の閲覧が大きな割合を占めるようになりました。
デジタルツインはKLM Royal Dutch Airlinesのマニュアルや航空機の資産管理資料にもリンクされており、技術情報を最新の状態に保つ上で役立っています。「仕様書などの文字情報を旅客機のデジタルツインから得られる豊富なビジュアルデータで補完でき、資産管理プロセスにおいて非常に有用です」と、Koomen氏は語ります。
機体に新たなWi-Fiルーターを導入する際に、作業員がデジタルツインを使って最適な設置場所を特定しました。「デジタルツインの測定ツールにより、チームはリモートで測定値を確認し、配置箇所を最適化することができました。コロナ禍でプロジェクトを軌道に乗せる上では、デジタルツインが非常に役立ちました」とKoomen氏は言います。
販促資料としての活用
KLM Royal Dutch Airlinesでは、乗客もデジタルツインにアクセスすることができます。KLM Royal Dutch Airlinesに搭乗する乗客は機内のどのセクションでも希望の座席を選ぶことができ、翼との相対的な位置で窓からの眺めを確認したり、すべてのビジネスクラスの座席から通路に直接アクセスできることを実感することができます。ドリームライナーのデジタルツインは特に人気が高く、これまでに7万回以上再生されています。
「ドリームライナーの美しいキャビン映像は、プライバシーを守るパーティション、電源とUSBコンセント、最高級のエンターテイメントシステムなど、快適なビジネスクラスの座席のもつ価値を示すのに役立っています」と同氏。ドリームライナーのデジタルツインでは、グルメなビジネスクラスの食事に加え、オランダの古い建物を陶器で表現したKLM Royal Dutch Airlinesのデルフトブルーのミニチュアハウスの1つも見られ、中にはオランダのジンが入っていることさえも確認できます。このミニチュアハウスは、コレクターズアイテムとしてKLM Royal Dutch Airlinesの大陸間ビジネスクラスの乗客にのみ提供されています。
「デジタルツインは、当社がいかに革新的な航空会社であるかを示すと同時に、ビジネスクラスのお客様に満喫していただける、さらに質の高い体験をアピールすることができます」とKoomen氏は述べます。「より多くのお客様が当社のフライトで感動の旅に出かけるきっかけになればと思います。」
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KLM ROYAL DUTCH AIRLINESについて
1919年に設立されたKLM Royal Dutch Airlinesは、欧州90都市、他大陸の70都市以上を始めとする世界の主要な経済都市に向けてフライトを運航しています。
https://www.klm.com/
本社
オランダ、アムステルフェーン
業界
運輸・旅行業
課題
物理的に航空機に搭乗せずに、トレーニングの質を高める
製品
Matterport Pro2 3Dカメラ
解決策
航空機のMatterportデジタルツインをオンラインで複数のバージョンで提供することで地上職員の訓練からパイロットのトレーニングに至るさまざまな用途に対応させ、トレーニングの安全性と柔軟性を最大化するとともに、全社的な二酸化炭素排出量の削減を実現
成果
- 旅客機のデジタルツインを複数作成し、さまざまなバーチャルトレーニングに活用することで二酸化炭素排出量とコストを削減。デジタルツインの閲覧回数は約90万回に。
- パイロットによるフライト前の機体確認においてもデジタルツインにモバイル端末から即座にアクセスでき、オペレーションの負荷を削減。
- 座席やキャビンをデジタルツインを使って紹介することで、消費者はより納得してチケットを購入できるように。
- 清掃スタッフへの新型の航空機の導入時の紹介と清掃作業の時間を 30%短縮。
https://matterport.com/ja/industries/case-studies/klm-royal-dutch